経営者が「やりがい」を失う3つの転換点:情熱を「維持」から「再起動」させる方法
- tsunemichiaoki
- 2025年11月28日
- 読了時間: 4分
更新日:2025年12月23日
ハーモニー経営の一端を垣間見ていただくためにある中小企業社長の苦難、そしてそこから這い上がる物語をお伝えします。

第2話 経営者が「やりがい」を失う3つの転換点
—静かな疲労の正体—
1.惰性の中で進む日々
吉村社長は、朝の会議室で社員たちの報告を聞いていた。
売上は堅調。新規顧客も順調に増えている。それでも彼の表情は晴れなかった。
「悪くはない。だが……何かが足りない。」
会議が終わると、皆すぐに自席へ戻り、パソコンに向かう。
指示されたことを着実にこなす。誰もサボってはいない。けれど、そこには以前のような“熱”が感じられなかった。
会社は止まってはいない。だが、動いてもいない。
その曖昧な停滞の中で、吉村自身も、どこへ向かっているのかが分からなくなっていた。
2.第1の転換点:成長の惰性 ― “攻め”から“維持”へ
創業期、吉村は情熱の塊だった。
新しい受注を取るたび、社員と握手を交わした。苦しい時も、「絶対に次はうまくいく」と信じていた。だが、会社が軌道に乗るにつれて、情熱の矛先が変わった。
「次の目標は前期比105%」
「固定費削減を徹底しよう」
数字を積み上げることでしか、成長を語れなくなっていた。
気づけば、「攻めるための成長」ではなく、「維持するための成長」を追いかけていた。
会議では、社員にこう言うことが増えた。
「無理はするな」
「安定が一番だ」
その言葉は優しさのようでいて、実は、自分自身への“言い訳”でもあった。
挑戦が恐くなった瞬間から、経営は静かに老い始める。
それが、最初の転換点だった。
3.第2の転換点:思いの形骸化 ― 理念が飾りになるとき
吉村の会社には、立派な経営理念があった。
「誠実なものづくりを通して社会に貢献する」
壁に額入りで掲げられ、パンフレットにも印刷されている。
だが、ある日ふと気づいた。この言葉を、最近誰かが口にしただろうか?
社員に「理念をどう感じている?」と尋ねても、返ってくるのは無難な答えばかりだった。「いい言葉だと思います」「大事だと思います」だが、そこに“自分の実感”はなかった。
理念は、生きていれば「指針」になる。
しかし、語られなくなった瞬間から「飾り」に変わる。
吉村は、いつしかそれを壁の一部として見過ごしていた。
そしてその“見過ごし”が、社員に「この会社の目的は数字だけだ」と感じさせていたのかもしれない。
経営理念とは、飾るものではなく、迷ったときに立ち返る「問い」である。
その問いが形骸化したとき、会社もまた、心を失っていく。
4.第3の転換点:自己との断絶 ― 「社長」と「自分」が離れていく
三つ目の転換点は、もっと静かに訪れる。
ある日、鏡を見たときに、ふと違和感を覚えるのだ。
「この顔、誰だろう?」
会社を守るために、社員を鼓舞し、取引先に頭を下げ、プレッシャーの中で踏ん張ってきた。
だが、いつしか“経営者としての自分”ばかりが前に出て、“ひとりの人間としての自分”が見えなくなる。
休日に家族と過ごしても、頭の中では会議の議題を考えている。
趣味だった釣りも、ここ数年は道具を触っていない。
心の中に「自由な自分」を閉じ込めたまま、“社長としての自分”を演じ続ける。
その演技に、疲れが出ないはずがない。
経営は孤独だとよく言われる。だが、本当の孤独とは、人との距離ではなく、“自分との距離”を失うことだ。
そしてその断絶が深まるほど、どんな成功も、心の底には届かなくなる。
5.やりがいを失うのではない、「感じ取れなくなる」のだ
やりがいは、突然消えるものではない。
静かに、少しずつ、感覚が鈍っていく。
惰性・形骸化・断絶――この三つが積み重なったとき、経営者の心は知らず知らずに曇っていくのだ。
だが、やりがいそのものは失われてはいない。ただ、見えにくくなっているだけ。
かつて情熱を燃やした日々、仲間と語り合い、未来を信じていた夜。そのすべては、今も心の奥に眠っている。
問題は、外の状況ではなく、「自分の心が何を求めているか」に気づけるかどうか。
経営が停滞しているとき、実は会社が疲れているのではなく、経営者の心が疲れているのかもしれない。
6.もう一度、心の声を聞くために
ある晩、吉村は帰り際に、机の引き出しを開けた。
そこには、創業当初に書いたメモ帳が残っていた。
“自分の手で、社員と誇れる会社をつくる”走り書きのその言葉に、思わず笑みがこぼれた。
「そうだ、最初はこれだった。」
数字の先にある“想い”を見ていた頃。
誰よりも、夢を語っていた自分。やりがいとは、与えられるものではなく、もう一度、自分の中から掘り起こすもの。
その夜、吉村は小さく決意した。
「もう一度、心を大事にした経営をしよう。」
(つづく)
第3話 吉村社長の成長物語<3>「心に響く経営」
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