top of page
  • Facebook Social Icon

吉村社長の成長物語<4>「経営者としての成長」

  • tsunemichiaoki
  • 5 日前
  • 読了時間: 4分

ハーモニー経営の一端を垣間見ていただくためにある中小企業社長の苦難、そしてそこから這い上がる物語をお伝えします。


経営


第4話(最終話) ハーモニー経営が導く“経営者としての成長” 



1.静かな変化のあとで


春の朝。吉村は工場の裏手に立っていた。


遠くでフォークリフトの音が響き、風にのって金属のにおいが漂う。かつてはその音を聞くだけで胸が高鳴った。だが今は、どこか穏やかだった。


「社長、あの試作品、量産化の目処が立ちそうです」


声をかけてきたのは、以前に提案をしてきた若手社員だった。

その笑顔には、あの頃にはなかった自信の色があった。


「そうか、ありがとう」そう答えながら吉村は思った。

――何かが、確かに変わった。



以前なら「この改善はコストに見合うのか」と口にしていたはずだ。

だが、今はそんな言葉は出てこない。


数字よりも、人の表情のほうが気になった。


それが、いつの間にか自分の“経営の物差し”になっていた。




2.経営は「指揮」ではなく「響き」


昼休み、事務所でコーヒーを飲みながら、吉村はふと思い出していた。

昔、ある経営セミナーで聞いた「ハーモニー経営」という言葉。


そのときは「きれいごとだな」と心の中で笑っていた。

だが、今はその意味が少しずつわかる気がする。


経営は、指揮者のようにすべてをコントロールすることではない。

それぞれの“音”が響き合う環境を整えること。同じ楽譜を見ていても、奏でる音は少しずつ違う。その違いを消そうとすると、組織は硬直していく。


「調和とは、同じ音を出すことではなく、違う音が響き合うこと」


――昔、音楽好きの社員が言っていた言葉を思い出した。

そのときは軽く受け流していたが、今になって胸に染みた。


経営者が“全体を鳴らそう”としなくてもいい。


大切なのは、それぞれの音が響ける余白をつくることなのだ。




3.内なる葛藤と、手放す勇気


とはいえ、頭ではわかっていても、心はそう簡単に切り替わらない。

吉村の中には、いまだに“数字で結果を出すべきだ”という声がある。

「共鳴」だの「調和」だのと言っても、結局は利益がなければ続かない――。


そんな思いがよぎるたびに、胸の奥がざらつく。

だがある日、幹部会議での出来事が吉村の考えを変えた。


議題は、新しい生産ラインの導入可否。

設備投資額も大きく、経営判断としては重かった。

議論の途中、ベテランの技術部長が静かに言った。


「社長、私はこの投資に賛成です。でも理由はコストではありません。現場の若い連中が“これをやりたい”と言っている。それを後押しすることが、次の技術を育てると思うんです」


一瞬、会議室が静まり返った。吉村は、胸の奥が熱くなるのを感じた。

――そうか、みんな、ちゃんと考えていたんだ。自分が“任せる勇気”を持たなかっただけなんだ。


「じゃあ、それで行こう」その一言を口にした瞬間、心の中で何かがほどけた。


自分が全てを決めなくてもいい。

むしろ、みんなの音を信じて任せることこそ、経営者の仕事なのだ。




4.響き合う組織の芽生え


数か月後、工場に新しいラインが稼働した。


設備は最新式というほどではない。だが、社員たちは自分たちで工夫し、手を加えながら動かしていた。

工程ごとに貼られたメモには、改善のアイデアや感想が書き込まれている。


その文字を一つひとつ見ながら、吉村は思った。

――これが、響き合う組織ということなのかもしれない。



社員たちは“命令されて”動いているのではない。

“共に響いて”動いている。

それは、どこか音楽的で、あたたかいエネルギーを帯びていた。


後日、若手社員の一人がこう言った。


「最近、うちの会社、なんか雰囲気がいいですね。 前は報告するのが怖かったけど、今は楽しみです」


その言葉を聞いた瞬間、吉村の目にうっすら涙がにじんだ。

会社が変わったのではない。自分自身が変わったのだ。


経営の“やり方”ではなく、“あり方”が変わった。




5.ハーモニー経営という生き方


吉村は今も忙しい。

決算もあるし、トラブルも起きる。

だが、不思議と焦りはなくなった。


むしろ、どんな出来事にも意味を感じるようになった。


「経営とは、支配することではなく、奏でること」


最近、手帳の最初のページにそう書いた。


ハーモニー経営――。

それは理論ではなく、生き方なのだと思う。


数字を追うだけでは見えない“心の波”を感じ取る力。そこにこそ、経営者としての進化がある。


ある日、現場を歩いていると、技術部長が笑顔で言った。



「社長、最近、会社が“いい音”してますね」



吉村は笑って答えた。

「そうか。じゃあ、俺もちゃんと“チューニング”しないとな」


その笑い声が工場の奥まで響いていった。

その音は、確かにハーモニーだった。


――そして、吉村は静かに思った。


経営は、響き合う場と環境を作り続ける旅である。

その響きの中で、人は、そして会社は、進化・成長していくのだ。



(了)





これまでの物語は


経営




経営





経営











コメント


bottom of page